【特集】色をまとうよろこび アトリエシムラのストール 2021
アトリエシムラがつくるストールには、 同じものが一枚もありません。発想や素材など「いま、この時」を手で染め、手で織り、わずかな枚数だけを作っています。
今年のテーマは、私たちがかねてより 魅了されてきた画家マーク・ロスコ。 色の重なりによって心に訴える彼の作品に学び、これまでにない挑戦を重ねて制作しました。
アトリエシムラならではの色で、春と秋、それぞれ2点ずつの新作をお届けします。このストールによって、色に包まれる、色をまとうという感覚を体験していただけたら幸せです。
ロスコ - 真紅と金茶
さまざまな表情を宿す
豊かな「赤」を纏って、秋を楽しむ
秋の新作「ロスコ - 真紅と金茶」
蘇芳×玉葱×桑×野人参
手織り
サイズ:約59×200 cm (両サイドのフリンジ各7 cmを含む)
価格:42,900円(税込)
ロスコ - ムーンベージュと藍
すべての植物が持つ普遍の色を主役に
触れるほどに愛着が増す
ロスコ - ムーンベージュと藍
刈安×白樫×夜叉五倍子×藍
手織り
サイズ:約59×200 cm (両サイドのフリンジ各7 cmを含む)
価格:42,900円(税込)
ロスコ - 藍とグレー
定番の「藍」から生まれた
またひとつあたらしい色の世界
ロスコ - 藍とグレー
藍×刈安×樫
手織り
サイズ:約59×200 cm (両サイドのフリンジ各7 cmを含む)
価格:42,900円(税込)
ロスコ - 茜と黄
いつでも春の気分をくれる
女性の一生をうつしたような一枚
ロスコ-茜と黄色
茜×黄金花×百日紅
手織り
サイズ:約59×200 cm (両サイドのフリンジ各7 cmを含む)
価格:42,900円(税込)
心をうるおす
豊かで繊細な色彩
ロスコの絵の特徴のひとつは、奥行きのある色彩です。よく見ると平坦に均 一に塗られているのではなく、ブラッシュの跡が残り、濃淡の起伏があります。全体を眺めると、色面は地に張りついているというよりも地の上に浮かび上がり、漂っている感じさえあります。
これを表現したいと試行錯誤の結果たどりついたのは、染め方を変えることでした。あえてムラが出るように工夫しながら染めると、織りあげた時に、求めていた色の奥行き、複雑さがあらわれるのです。間近にストールを見ていただくと、この「ムラ染め」によって生まれた繊細で豊かな色彩世界を味わっていただくことができます。
アトリエシムラの「ムラ染め」
私たちは通常、ムラなく糸を染めようとします。それを、あえてムラが出るように工夫しながら糸を染めることを、工房では「ムラ染め」と呼んでいます。糸の染まる表面を狭くしたり、広くしたり、反転させたり。この手作業を重ねて染めることによって、1綛(かせ)の糸の中に、色の濃淡を表現しています。アトリエシムラでは、ただムラをつくるのではなく、織った時に心地よい凸凹が生まれるよう制作しています。
巻き方によって楽しめる
色のバリエーション
大きなキャンバスに、複数の長方形の色面が並んでいるー。ロスコが芸術活動の中で確立した表現様式は、現在「ロスコ・スタイル」として知られています。2つか3つの色面を上下に積み重ねるという構成は、シンプルでありながら無限のバリエーションをもたらします。
色の積み重ねから生まれるロスコ作品には、表面にあらわれていない、見えない色の蓄積もあるはずです。そこに織物との共通点を感じながら研究を重ね、デザイン画を起こしました。特に心を注いだのは、織ったときにあらわれる色の重なりです。巻き方によっても色の印象が変わるため、さまざまに楽しんでいただくことができます。色面と色面の間には、ところどころ一本のラインを配置しました。これがアクセントとなり緊張感が生まれ、全体を引き立たせています。
やすらぎをもたらす
色と色の深い調和
ロスコが生み出した色彩は時に明るく、時に暗く、異なる色同士が調和して、あるハーモニーを生み出しています。彼はつねに色彩を感情の表現とし てとらえていました。「私の絵画の前で涙を流す人たちは、私が制作している過程で感じる宗教的経験と同じ経験をしているのだと思う」とは彼自身が 残した言葉です。
私たちも、植物の命が与えてくれた色彩の美しさだけではなく、植物の命そのものの記憶に想いを馳せていただけるようなストールを目指したいと思い制作しました。たったひとつの色も、いくつかの色の積み重なりや、時間を包み込んでいます。経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の織り合わさったこの一枚のストールにその豊かさを感じ、身を委ねていただくことができたらと願っています。
ご縁を大切に繋いで
半世紀近く前、志村ふくみの工房を訪ねて来られたアメリカ人のご夫妻が、 ふくみの作品を見て「ロスコ、ロスコ」とおっしゃっていたというエピソードが残っています。当時ふくみはまだロスコについて何も知りませんでした が、後日ロスコの絵画を目にした際、非常に感銘を受け、縦と横の面から生み出す世界観、そして色彩が表現する内面世界に、自分自身との深い共通点を見い出したようです。
今回の制作にあたって、私たち自身がロスコの絵画を前に感じたこと、また、師であるふくみから連なるささやかなご縁も大事に想いながらストールを織り上げていきました。着想から最初の一枚が生まれるまでの半年には難しさもありましたが、それ以上にワクワクする気持ちを絶えず感じていました。この想いがストールを纏ってくださる方々のもとに僅かでも届くなら、とても嬉しく思います。
<参考文献>
『現代アートの巨匠』美術手帖編
『現代美術4 ロスコ』講談社
『母なる色』求龍堂
<撮影協力>
ザ・ホテル青龍 京都清水
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マーク・ロスコ
Mark Rothko (1903-1970)
ニューヨークを拠点に活動した画家。色面抽象絵画を代表する彼の作品は静謐さや深い精神性をたたえ、鑑賞者のもつ感情を映し出すとともに、ある経験を与えます。日本ではDIC川村記念美術館に7枚の絵画からなる「ロスコ・ルーム」があります。