アトリエシムラ9周年「色への祝祭 ― 紫のひともとゆゑに」
アトリエシムラは2016年11月に誕生し、みなさまに支えられ、おかげさまで今年(2025年)で9周年を迎えます。また東京・世田谷に新しいGallery & Schoolがオープンし、新たな地での活動を始めております。
今回のテーマは「色への祝祭 ― 紫のひともとゆゑに」です。紫は、紫草の根である紫根からその色をいただきます。紫草はかつて武蔵野に自生していたと言われています。『古今和歌集』には、この地とのゆかりを示す次の歌が詠まれています。
「紫(むらさき)の ひともとゆゑに 武蔵野(むさしの)の 草はみながら あはれとぞ見る」(紫草がたった一本生えている、そのゆかり(縁)によって、武蔵野のすべての草までがしみじみと愛おしく思われる。)
アトリエシムラ東京・世田谷も旧武蔵野の地にあります。この地に宿るご縁を大切に、本展を企画いたしました。
奈良時代から伝わる古法に基づき、紫根染めには椿の灰汁を媒染に用いています。その知恵は『万葉集』の次の歌にも示されています。
「紫(むらさき)は 灰(はい)さすものそ 海石榴市(つばいち)の 八十(やそ)の衢(ちまた)に 逢(あ)へる児(こ)や誰(たれ)」(紫を染めるには(椿の)灰汁を用いるものです。その椿の名を持つ海石榴市の、多くの人が行き交う辻で出会ったあなたは、いったい誰でしょうか。)
紫草は多年草で夏に白い小花を咲かせますが、近年は地球温暖化などの影響で自生が難しくなり、絶滅危惧種に指定されています。現在、私たちが手にする紫根の多くは、モンゴルや中国から輸入されたものです。植生が大きく変化するなか、私たちは自然への畏敬の念を持ちつつ、草木染めと手機による制作を行っています。
来年、アトリエシムラはいよいよ10年目を迎えます。日本古来の染織技法に基づき、植物が育む色彩世界の美しさを社会へ伝える取り組みを、これからも一層丁寧に続けてまいります。皆様のお越しを心よりお待ちしております。
▪️開催概要
会期 10月31日(金)〜11月18日(火)12:00〜17:30 水曜・木曜定休
会場 アトリエシムラ Gallery&School 東京・世田谷
東京都世田谷区祖師谷6-17-7
展示販売内容 新作の絵羽着物、新作のミナ帯『tanpopo』、新色の帯締め、帯揚げ、9周年特別版「四季の菓 − 紫」、草木染めブローチ「鼓草(つづみぐさ)」など
お問い合わせ TEL: 03-6411-1215 Email: gallery@ateliershimura.co.jp
〈展示販売商品〉
▪️新作着物「星月夜」
9周年のテーマ「紫のひともとゆゑに」に寄せ、ゴッホの名画「星月夜」の世界から着想を得た作品を制作しました。ゴッホの原画が、夜空の深い「青」と、月や星々の輝く「黄」という補色の関係によって印象的な情景を描き出しているように、本作品では9周年のテーマ色である「紫」を夜の色として捉え、星月の「黄」との色彩の対比を軸に表現しています。着物に見られる繰り返しの縞模様は、夜の訪れとともに空に輝き始める星々の光景を表現しています。

▪️ミナ帯 『tanpopo』
ミナ ペルホネンとのコラボレーション企画「シムラの着物 ミナの帯」5回目の発表となります。今回のミナ帯は『tanpopo』柄。9周年のテーマである「紫」の着物にあわせて、ネイビー×ブラウンのシルクミニ千鳥柄に『tanpopo』の刺繍をあしらった、秋の装いにぴったりの一本になりました。同じ生地で双葉バッグ、信玄袋もご用意していますので、着物とあわせてお出かけをお楽しみください。
テキスタイル『tanpopo』について
デザイナーの皆川明さんがフィンランドの小さな村・フィスカルスで、タンポポの群生が一面に広がる景色に出会って描かれました。天真爛漫に、自由気ままに咲くタンポポの花と、次の命の種である球体の綿毛が、飛び立つ時を今か今かと待つように風に揺られている様子は、皆様の色々な記憶の景色の中にもあるのではないでしょうか。通学路や北欧の旅、ささやかでことさら気に留めることのない路地や公園の隅っこに咲いているこの花は、実はとっても美しく、空想に満ちています。
▪️9周年特別版「四季の菓 − 紫」
うつろいゆく四季の情景や美しい言葉を和菓子で表現する、和菓子デザイナーのYUKI FUJIWARAさんとのコラボレーションによるお菓子「四季の菓」は、植物からいただく季節の色を表現した琥珀糖です。
しのびよる夕闇に、光と闇が溶け合い、やがて訪れる夜を予感させる色「紫」。うつろいゆく夕刻の空を映した色合いと、山葡萄の芳醇な味わいに、深まる秋の情景を感じていただけたら幸いです。店頭とオンラインで販売予定です。オンライン販売ページは後日お知らせいたします。
▪️草木染めブローチ「鼓草(つづみぐさ)」
アトリエシムラが草木で手染めした生地を、アトリエ染花が繊細な手仕事で立体的に仕上げ、二つのアトリエのコラボレーションによるブローチが生まれました。
洋装にはそのまま、和装には帯留めとしてもお使いいただけるよう、細やかなデザインにこだわっています。タイトルの「鼓草(つづみぐさ)」は、タンポポの古名に由来します。植物がもたらす色彩と、その美しい形。二つの魅力をお楽しみいただければ幸いです。
〈企画展関連イベント〉
▪️トークイベント
かつて武蔵野の地に自生していた紫草の復活に取り組む「みたか紫草復活プロジェクト」(三鷹市)より会長の西村学さんをお招きし、代表の志村昌司とのトークイベントを開催いたします。トークイベントでは、紫草の歴史、紫と武蔵野の関係、そして栽培方法に至るまで、実践に基づいた貴重なお話を多岐にわたってうかがいます。質疑応答の時間もございますので、ぜひ会場でのご参加をお待ちしております。
日時 11月2日(日)17:00〜18:30
会場 アトリエシムラ Gallery&School 東京・世田谷
参加費 2,200円(税込)
募集人数 15名
※紫の小裂を使用したしおりをプレゼントいたします。
※後日、トークイベントの内容を一部YouTubeで配信予定です。
西村 学
「紫草に宿るいのちの記憶をたどり、武蔵野の風土と語り合う」
武蔵野の地に、かつて息づいていた「紫草(むらさき)」を復活させたい――。
その願いを胸に、三鷹の地で「紫草(むらさき)」の再生と紫根染め文化の継承に取り組むみたか紫草復活プロジェクト2代目会長。
栽培の試みは決して容易ではなく、失敗と発見を繰り返しながら、先代が築きあげようとした絶滅危惧種「紫草」の育成方法の確立に一歩一歩前進している。
現在は、三鷹市内の古民家や市民講座を拠点に、紫草の栽培・研究・体験活動を展開中。
「成功よりも、挑戦する姿を子どもたちに見せたい」という信念のもと、情熱あふれる人柄と確かな行動力で、多くの人々を紫草(むらさき)の輪に引き込んでいる。
<みたか紫草復活プロジェクト>
レッド・リスト(絶滅危惧種)に指定されている紫草を復活させることを目的として、三鷹市を中心として活動している。
▪️特別ワークショップ 「紫根染めとつなぎ糸作りのワークショップ」
紫草の根である紫根を湯の中で揉み出すと、独特の香りとともに柔らかな品のある色がいただけます。染めの後には、志村ふくみの初期の代表作である 『秋霞』 や、アトリエシムラのアイテムにも用いられている 「つなぎ糸」 作りをご一緒に行います。古より人々の心を惹きつけてやまない紫色と、民藝に連なる手仕事の息吹をご体感ください。
・紫根染めとつなぎ糸作りの半日コース
・紫根染めとつなぎ糸作りと機織りの1日コース